シネマレビュー その9 『ブリッジ・オブ・スパイ』
1957年、保険関連の訴訟を担当するアメリカ人弁護士のドノヴァン(トム・ハンクス)は、ソ連のスパイとして身柄を拘束されたアベル(マーク・ライランス)の弁護を引き受ける事となる。しかし、時は東西冷戦真っ只中。世論はアベルとドノヴァンに非難の目を向け始めるが・・・
我々の在り方
まさに燻し銀!淡々とした会話劇が中心ながら、豊かな広がりと味わい深さを持った良作でした。
劇中に登場する台詞のひとつに「我々の在り方」というものが出てきます。
ひとつの過ちが再び世界を戦火の渦に巻き込むかもしれない極限の緊張状態。そのような状況下で、人は如何にして正しい判断を下すべきなのか。
「我々の在り方」とは、(本作においては)それぞれが果たすべき“職責”についての問いかけであると感じました。
政治的・宗教的イデオロギーの対立。
道理を無視した感情まかせの世論。
それらに対抗出来る唯一の武器は、個々人の持つ確固たる“信念”である―
これはスピルバーグ監督の前作『リンカーン』でも描かれたテーマですが、本作では更にそれを推し進め、その信念の“本質”について2人の登場人物を軸に丹念に描き上げてゆきます。
特に注目すべきはソ連スパイのアベル。
彼は同じスパイでも、ジェームズ・ボンドやイーサン・ハントといったナイスガイとは対極にある、まさに“冴えないおじさん”(笑)
しかし、そんな冴えないおじさんの淡々とした言葉の節々に、自らの職務に対する強い覚悟が感じられるんですね。
「不安はないのか?」
「そんなもの、(持っていて)役に立つか?」
アベルを演じたマーク・ライランスの“語らない演技”は見事です。
そして、トム・ハンクス演じるドノヴァン弁護士。決して目立たず奇をてらった行動をとることもありませんが、弁護士と言う仕事の本質とその限界を誰よりも深く理解している。
国籍も立場も全く異なる2人ですが、唯一“職責”に対するスタンスの持ち様という点において通じるものがあったのだと思うんですね。
自らの仕事を深く理解し、愛すること。そして、その信義を貫くこと。
それこそが本作で語られる信念の本質であり、我々が正しい在り方を示すための最善の道となるのではないかと思いました。
最後に印象深かった場面をひとつ。
TVのニュースで父親が果たした功績を知り、憧れと尊敬の念に満ちた目でドノヴァンを見つめる子どもたち。作品の後味をより温かくしたのと同時に、ドノヴァンによって守られた平和な日常を示した名場面だったと思います。
やっぱりスピルバーグ監督、子どもの使い方が上手ですね(^^)
新年一本目、幸先の良い映画始めとなりました。おすすめです!
札幌市内で『ブリッジ・オブ・スパイ』を上映している映画館は「ユナイテッド・シネマ札幌(サッポロファクトリー内)」と『札幌シネマフロンティア(ステラプレイス内)』です。(2016年1月13日時点)
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