シネマレビュー その6 『アパートの鍵貸します』
1960年度のアカデミー賞・作品賞に輝いた傑作コメディ。
保険会社に勤務するバド(ジャック・レモン)は出世の足掛かりにと、自らのアパートを上役の情事のために貸していた。ところが人事部長のシェルドレイク(フレッド・マクマレイ)が連れ込んできたのは、バドが憧れるエレベーターガールのキューブリック(シャーリー・マクレーン)だった・・・
映画史に名を残す傑作を週替わりに上映する「午前十時の映画祭」。
このたび、ぼくのオールタイム・ベスト映画である本作が上映されることとなりました。そんなわけで、今回はこの映画の魅力についてご紹介しようかと思います。
愚かだからこそ、愛おしい
決して本作は品行方正な作品とはいえません。
主人公のバドは上司のご機嫌取りで出世を狙うお調子者ですし、ヒロインのキューブリックは清純そうに見えて実は不倫の泥沼から抜け出せずにいる。
ひとことで言えば“愚か”なキャラクターばかりなんですよ(^^;
でも不思議なのは、決して彼らを蔑視する気持ちにはならないということ。
それどころか、愛おしいとすら感じてしまうんです。
それは、彼らの愚かさの根底に「幸せになりたい」という純粋で切実な思いを感じ取れるからなんですね。
出世をしたい、好きな人と添い遂げたい。
これ、国や時代を問わず誰もが抱くものですよね。
だけど、やり方を間違えてしまったばっかりに、かえって惨めな思いを味わうことになる。
・・・誰にだって、経験あるんじゃないでしょうか?
本作が単なるコメディ映画で終わっていないのは、そんな人間の持つ愚かさを隠さず正面から捉えつつも、ユーモアとペーソスで温かく包み込むビリー・ワイルダー監督や、ジャック・レモンをはじめとする名優たちからの
“優しいまなざし”を常に感じられるからなんですね。
だからこそ、物語は決して彼らを見捨てない。
「メンチュ(人間)になります」
はじめて自分の意思を貫いたバド。
「どうかしら。物事は成り行きだわね」
本当に大切なものに気付いた時の、キューブリックのあの表情!
どんなに愚かで道を踏み外してしまったとしても、
過ちを認めたとき、きっと誰もが成長できる。
そんな勇気をくれる映画なんです。
そして、好きで好きで仕方ないのが、人生の切なさと豊かさをこの上なく味あわせてくれる、最高のラストシーン!
「Shut up and deal(黙って配って)」
ぼくにとって全映画史上、最高の作品です。
この機会にぜひ、多くの方にご覧戴ければと思います(^^)
新・午前十時の映画祭「アパートの鍵貸します」は、2015年12月26日(土)より札幌シネマフロンティア(ステラプレイス内)で1週間限定での上映となります。
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