シネマレビュー その22 『レヴェナント 蘇えりし者』
19世紀前半、アメリカ・ルイジアナ州。
毛皮ハンターのグラス(レオナルド・ディカプリオ)は森から現れた巨大な熊に襲われ、瀕死の重傷を負ってしまう。彼を救おうとする仲間たちだったが、メンバーの一人、フィッツジェラルド(トム・ハーディ)は彼を殺害し放棄しようとし、激昂したグラスの息子ホーク(フォレスト・グッドラック)は返り討ちに合い殺害されてしまう・・・
自然、生命、信仰。
圧倒されました・・・!
シンプルな復讐劇を軸としながらも、そこから派生する多くの生と死、現実と虚構の狭間を描くことで、“生きる”ということの根源的な意味を観る者へと問いかける壮大な映像神話でした。
非常に印象的だったのは、作中で奪われていく数多くの生命です。
毛皮を剥ぐため、食料を摂るため、暖をとるため・・・
さまざまな理由で、さまざまな生命が奪われてゆきます。
この世界に生きる者たちは、生命を奪いながら自身の生命を永らえています。
これはどんな綺麗事を挟んでも覆しようのない、自然の摂理です。
やるせないことに、フィッツジェラルドがグラスを放棄しようとしたことにも一定の論理がありました。
神々しいまでに美しく荘厳な自然の映像と、正視に堪えないほどの傷を負いながら弱々しく這いずり回るグラスの姿を重ねることで、本作は“肉体”という実体としての生命の強さと儚さを痛烈に描写し続けます。
その一方で描かれるのが、息子を殺害されたグラスと、白人たちに蹂躙されたアリカラ族、双方による復讐劇です。
食料を摂り、暖を得るために命を奪うという行為が肉体を生き永らえさせるために必要な行為であるならば、復讐という行為は肉体に内包される“魂”の救済に他なりません。
人生のすべてだった息子を惨殺されたグラス。
築き上げてきた文化を破壊され、自身の娘を奪われたアリカラ族の族長。
憎き相手の息の根を止めることこそが、彼らが生きていく唯一の目的であり、ある種の希望だったのだと思います。
しかし、その思いを遂げたとき、果たして彼らの魂はどこに向かうのか?
最終的に、グラスはある決断を下します。
本作は彼の肉体と精神の全てを自然に同化させることで、復讐という行為の行きつく先と、その後も続くであろうグラスの果てのない苦悩を暗示してみせるのです。
どんな生命も、自然という大きな世界の一部にほかなりません。
限られた生命の循環の中で、何を信じ、何のために生きるのか。
やがて終わりを告げられるその時まで、我々もまた、それを探し続けなければならないのかもしれません。
復讐という小さな物語の中で、宇宙的な広がりまでも感じさせる圧倒的な重厚感。長年アカデミー賞を逃してきたディカプリオですが、念願のオスカーを本作の演技によって受賞できたということを、ぼくは非常に嬉しく思います。
札幌市内で『レヴェナント 蘇えりし者』を上映している映画館は「ユナイテッド・シネマ札幌(サッポロファクトリー内)」と「札幌シネマフロンティア(ステラプレイス内)」、「ディノスシネマズ札幌劇場(ディノス札幌中央ビル7・8階)」です。
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