シネマレビュー その20 『ルーム』
7年前、見知らぬ男に誘拐されたまま監禁生活を余儀なくされてきたジョイ(ブリー・ラーソン)と、彼女が誘拐犯との間に身籠った 息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)。息子の為、そして失われた自らの時間を取り戻すため、ジョイは決死の脱出を試みる。しかし、外の世界を知らないジャックは・・・
扉を開くとき
最初に結論から言いますが、これはお薦めです。
アカデミー賞4部門ノミネートは伊達じゃない!
個人的には本年のベスト10 に喰い込んで来るであろう傑作でした。
前半のサスペンスフルな逃亡劇、そこから一転して描かれる後半の淡々としたドラマ描写。本作は大きく分けてこの二部で構成されています。
まず称賛されるべきは、はじめて外界に触れた際のジャックの
恐怖と戸惑いを見事に表現した極めて高度な映画的手法です。
被写体深度を浅くしピントをずらすことで、ジャックの目に映る新しい“世界”を視覚的に表現してみせた秀逸なカメラワーク。そして、急激な状況の変化に対応できず怯える彼を実在感たっぷりに体現してみせた、ジェイコブくんの演技力。
“部屋”の中こそが認識できる世界の全てであったジャックにとっては、それまでの常識を根底から覆されたにも等しい体験であるわけです。それらを一切の台詞、ナレーションに頼らず見せきった一連の描写は文句なしに本作の白眉と言えるでしょう。
しかし、それ以上に記憶に残ったのは母親・ジョイを巡る物語でした。
失われた時間の重さ、“誘拐犯との間に出来た息子”という事実から目を背けようとするジョイの父親。心ない世間からのバッシング・・・
7年の監禁生活から解放されたからといって、全てが元に戻るはずはない。
本当の苦悩は寧ろその先にあるという残酷な現実に耐えかね、ジョイは次第に疲弊していってしまいます。
狭い部屋から広い世界へと羽ばたいていく少年と、広い世界から小さな心の部屋に逃げ込もうとする母親。
取り巻く環境が同じであっても、個人が実感する世界はそれぞれ全く異なるという事実を、本作はこの両者を対比させることで痛烈に描いて見せていくのです。
印象的だったのは、ジャックとジョイ、それぞれがそれぞれの扉を開くきっかけに、互いの身体の一部が託されていたということ。
独りでは動かすことのできなかった扉も、大切な人の想いとともに踏み込めば、きっと開くことが出来る。
どんな世界にいようと、大切なものはずっと傍らにあったんですね。
優しく、静かでありつつも、そう強く感じさせてくれる上質なラストシーンでした。
心からお勧め出来る傑作です!とくに女性の方は是非ご覧ください!
札幌市内で『ルーム』を上映している映画館は「札幌シネマフロンティア(ステラプレイス内)」と「ディノスシネマズ札幌劇場(ディノス札幌中央ビル7・8階)」です。
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