シネマレビュー その15 『マネーショート 華麗なる大逆転』
2008年、サブプライムローン危機に伴う経済破綻を予期した若き金融マン達の実話をもとに描いた社会派ドラマ。
金融トレーダーのマイケル(クリスチャン・ベイル)はサブプライムローンの構造に重大な欠陥がある事に気づくも、ウォール街からは全く相手にされない。
そこで彼は「CDS」という金融取引によって出し抜きを計画するが・・・
知らない、ということを知る
タイトルだけ見ると、若き有能な金融マン達が知略を巡らして勝利を得る爽快な経済ドラマを想像してしまいそうですが・・・
いやぁ、びっくりしました。全然スカッとしないんですから(笑)
本作は冒頭から様々な金融用語が飛び交うため、ぼくをはじめ経済に対して明るくない方は面食らうこととなるかもしれません。空売りやサブプライムローンなどといった単語に対して最低限の知識がないと敷居の高い作品となってしまうことは否めないでしょう。
それに加えて本作は、ストーリーテリングに関しても独特のクセがあります。
登場人物たちが我々観客に向けて話しかけてきたり、突然何の脈絡もなく各界の著名人が実名で登場し、なぜか金融用語の解説をはじめたり・・・
その他、レッド・ツェッペリン、メタリカといった無駄にテンションの高い挿入曲、ドキュメンタリー方式の撮影、役者陣のエキセントリックな演技など、枚挙に暇がありません。
この時点で本作に付いて行くのが厳しいという方も居られるでしょうが、個人的にはこうした演出によって難解な物語が良い意味でけむに巻かれ、飽きずに楽しむことが出来たという感じでした。
ただ、そう思えたのも中盤まで。終盤、いよいよ世界的な金融危機が現実に迫ると、こうしたコメディタッチな演出に込められた真の意味が明らかとなるんですね。
「知らないことが愚かなのではない。知らないことを知っていると思い込むことが愚かなのだ」
本作ではウォール街で働く金融マン達が如何に仕事に対する責任の自覚が欠けていたか、無知であることを認識していなかったかを強烈なアイロニーを込めて克明に描きいてゆきます。
住宅ローン、ひいては世界経済が崩壊した真の原因は、単純にそこに携わる人々の“愚かさ”によるものだったんですね。そしてスクリーンを通じて我々に語りかける登場人物たちの目の色も、それに気づく前後で明らかに変わっているんです。他でもない、我々観客自身こそが当事者であると言わんばかりに。
序盤の良い意味での軽さが、終盤になって劇的に反転されるこの演出の妙。
何とも映画的興奮を掻き立てられる素晴らしい展開でした。
非常に観る人を選ぶ作品だとは思います。
しかし世界経済の雲行きが再び怪しくなりつつある今、是非とも観るべき作品と言えるのではないでしょうか。個人的にはお薦めの一本です!
札幌市内で『マネーショート 華麗なる大逆転』を上映している映画館は「ユナイテッドシネマ札幌」(サッポロファクトリー内)と「札幌シネマフロンティア」(ステラプレイス内)です。
comment closed