シネマレビュー その11 『ザ・ウォーク』
フランスの大道芸人フィリップ(ジョセフ・ゴードン・レヴィット)は、特技である綱渡りを究極の芸術として表現できる舞台を探していた。やがて彼は高さ417メートルを誇るマンハッタン島のワールド・トレード・センター(WTC)に目を付けるが・・・
この素晴らしき世界
こんなに手に汗握ったのはいつ以来でしょう(^^;
完成度の高い3D表現も相まって、まさしく“体験する”という言葉が相応しい抜群のエンターテイメント大作でした。
地上から417m、落ちれば即死間違いなし。
恐らく観る人の大半がフィリップに対してこう言いたくなることでしょう。
「なんでこんなことするんだよ!」 と。(笑)
しかし本作が優れているのは、彼がこのような“狂った夢”を抱いた理由を明確には語らなかった点にあると思うんです。
多くの人間から思い止まるよう説得されても、それが法に触れる行為だと理解していても、夢に向かって脇目もふらず走り続けるフィリップ。
それは恐らく、この挑戦こそが彼にとっての“至高の美”たるものであったからだと思うんですよね。
何が琴線に触れるかは千差万別、人それぞれです。
小説を読んで感動する。
音楽を聴いて胸を打たれる。
スポーツを観て心が震える。
彼にとっては、それがたまたま綱渡りであったというだけなのです。
アメリカへ渡るため英語を習得し、無謀な挑戦に賛同する仲間を集め、警戒の厳しいWTCに侵入してワイヤーを架ける・・・
crazy、madといった言葉を浴びせられ続けたフィリップでしたが、しかしcrazyでmadな彼だからこそ、誰も見たことのない世界へ到達できたのだと思います。夢の舞台へ登りつめたとき、彼の目には地上417mの高さという数字を越えた景色が広がっていたことでしょう。
だからこそ本作には、命知らずの挑戦を目撃したという以上の感動がある。
一人の若者が、自分を信じ、夢を愛し、仲間との絆を頼りに偉業を成し遂げたという事実。それこそが、法や常識といった建前を取り払って、多くの人々の胸を打ったのだと思います。
そして、忘れてはならないのが本作の影の主役と言えるWTCビル。
「バカでかい本棚」と揶揄されながらもフィリップの希望の地となり、やがて多くのニューヨーク市民の誇りとなったこの建造物は、一部の破壊的思想者達の手によって無残にも崩れ去りました。
ラストシーン、ある言葉とともに映し出されるWTCの姿が何とも儚げで、本作の余韻を一層深いものとしてくれたと思います。
万人にお薦めできる良作でした。
ぜひとも3Dでご観賞下さい!
札幌市内で『ザ・ウォーク』を上映している映画館は「ユナイテッド・シネマ札幌(サッポロファクトリー内)」、「札幌シネマフロンティア(ステラプレイス内)」、「ディノスシネマズ札幌劇場(ディノス札幌中央ビル7・8階)」です。
comment closed