シネマレビュー その7 『クリード チャンプを継ぐ男』
ボクシングのヘビー級世界チャンピオンとしてその名を轟かせたアポロ・クリードの息子、アドニス(マイケル・B・ジョーダン)。父の死後に生まれた彼は、その身に流れる闘士としての血を抑えられず、プロボクサーとしての道を歩み始める。そして彼が訪ねたのは、かつての父のライバルであり、親友でもあったロッキー(シルヴェスター・スタローン)であった・・・
人生という名のリングの上で
燃えつきました!
ロッキーシリーズ初のスピンオフは、シリーズの精神を正統に受け継いだ名作となりました。
本作で称賛されるべきは、登場人物たちが内包する気高い精神性を描いている点にあると思います。
“アポロの息子”としてでなく、一人の人間として、その存在を周囲に認めさせようとするアドニス。
進行性難聴を抱え、やがて来る聴力の喪失を覚悟しながらも、前向きに歌声を響かせ続けるビアンカ。
自分は何故、この世に生まれたのか。自分は何者なのか。
自らの存在意義に葛藤しつつも、授かった生を精一杯駆け抜ける彼らの姿はまさしく『ロッキー』一作目のスピリッツの再現であり、この点だけで製作陣のシリーズに対する深い敬意と理解を感じることができます。
そして、そんな若者たちを導くのが勿論われらがロッキー・バルボア!
元チャンピオンとして若者を指導するという点では5作目とプロットが似通っていると言えますが、スタローン氏の俳優としてのキャリアの行き詰まりがそのまま作品内容に反映された感があった同作と異なり、本作では基本的にバックアップに専念。
痛々しいほどの“老い”を感じさせるその姿は、文句なしにスタローン史上最高のベストアクトであったと断言できます。
活力みなぎる若者たちと、孤独な余生を送っていた元ボクサー。
互いに支え、支えられ、それぞれが人生という名のリングへと上ってゆく姿には、王道ならではの揺るぎない感動がありました。
そして、それら全てのドラマが収束する凄まじいファイトシーン!
TV中継然とした過去作とは一線を画したクローズアップ&長回しを中心としたその構成は、試合の迫真性を高めると同時にアドニスと観客とをより同調させる効果をもたらしており、本作の独自性を語るうえで非常にフレッシュな出来栄えとなっています。
何者も、時の流れに逆らうことはできません。
しかし、熱い想いとともに過ぎ去った時間の痕跡は、決して色褪せることなく輝き続け、やがて受け継がれてゆくのでしょう。
今年ラストを飾るに相応しい傑作でした。おすすめです!
札幌市内で『クリード チャンプを継ぐ男』を上映している映画館は「ユナイテッド・シネマ札幌(サッポロファクトリー内)」と「札幌シネマフロンティア(ステラプレイス内)」です。(2015年12月26日現在)
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